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アステリオス・ポリプ/ デイヴィッド・マッツケーリ 著、矢倉喬士 著、はせがわ なお 著(サウザンブックス社)

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別れた妻を思うニューヨークの建築科教授が
偶然たどり着いた町で新しい自分に変わっていく

 アステリオス・ポリプはニューヨークの大学で教鞭をとりつつ、「ペーパー・アーキテクト(設計図だけの建築家)」として名を馳せた著名な(元)建築学教授。 彼は妻のハナと別れてからというもの、過去の幸せだった日々を振り返るだけの無気力な生活を送っている。 50才の誕生日を迎えた夜、彼が住む建物で大規模な火災が発生する。 彼は大慌てで思い出の品をいくつか手に取ると、ほうほうの体で自宅を飛び出す。 それは彼が過去を見つめ直し、人生をもう一度やり直すための第一歩だった̶̶。

二項対立に囚われたアステリオスの数奇な運命を語るのは、彼の死んだはずの双子の兄弟。 物語は建築・美術・音楽・演劇・文学・哲学などの要素を散りばめつつ、20世紀から21世紀へと向かうアメリカの歩みと共振し、公民権運動やベトナム戦争や9.11同時多発テロといった歴史的事件と邂逅する。

 完成まで約10 年の歳月を費やし、出版後はアイズナー賞3部門とハーヴェイ賞3 部門を初め、多くの賞に輝いたアメリカ発のグラフィックノベルのひとつの頂点。世界のさまざまな言語に翻訳され、15年にもわたって日本語版が待望されていた傑作がここについに翻訳!

 この作品では、ある男が50年の半生を振り返って別の人生のあり方を探求するという個人的なテーマの裏に、20世紀後半のアメリカの歩みが何を間違った結果9.11同時多発テロに至ったのかという壮大なテーマがパラレルで進行する。物語冒頭でアステリオスが住むアパートに雷が落ちて火災が発生するが、このアパートはツインタワーを模しており、さらに、黄色ベースで描かれる過去や夢の中の場面では何の説明もなく飛行機が小さく飛んでいることが多く、ツインタワーと飛行機のイメージが繰り返し登場する。20世紀後半のアメリカの歩みにおいて、経済格差は拡大し、環境は破壊され、マイノリティ民族は不満を持ち続けてきたのだと、アステリオスはアポジーの町の個性的な人々との出会いを通して気づかされる。ここにおいて、一人の男がこれまで見過ごしてきた事物との出会いを経て失った妻との関係をやり直せるかどうかというテーマは、アメリカが見過ごしてきたものを直視することによって「有りえたかもしれぬもう一つのアメリカ」を創出できるかというテーマと対を為すことになる。

 『アステリオス・ポリプ』は、オルフェウス神話や『オデュッセイア』を下敷きにしたストーリーラインや、次々に登場する個性的なキャラクターたちも大きな魅力だが、グラフィックデザインもまた特筆すべき要素である。例えば、モダニズム建築(ガラス・鉄・コンクリートを用い、柔軟かつ洗練された機能美を持つ建築様式)をこよなく愛する主人公アステリオスの体は、モダニズム建築を体現するかのようなデザインで描かれ、その妻で、植物や生物をモチーフとして使用するアーティストのハナは、有機的で繊維質のデザインで描かれる。異なるキャラクターが異なる質感で描き分けられ、彼らが打ち解けたり喧嘩したりして関係性が変化する際に体の質感ごと変化していく描写は、グラフィックノベルならではの表現の可能性を存分に引き出している。






デイヴィッド・マッツケーリ (著/文): デイヴィッド・マッツケーリは、1960年生まれのマンハッタン在住のコミックアーティスト。1980 年代からフランク・ミラーと共同制作を行い、マーベル・コミックスの『デアデビル: ボーン・アゲイン』(秋友克也訳、ヴィレッジブックス)や、DCコミックの『バットマン:イヤーワン/イヤーツー』(秋友克也・石川祐人訳、ヴィレッジブックス)で大きく評価される。1990年代になると、ヒーローコミックから距離を置いて個人的な創作に打ち込み、妻のリッチモンド・ルイスと共にコミックアンソロジー『ラバー・ブランケット』を編集・出版する。1994 年には、小説家ポール・オースターの同名小説をグラフィックノベル化した『シティ・オブ・グラス』(森田由美子訳、講談社)で新境地を開拓する。そして2009年、約10年の歳月を費やしたオリジナル長編グラフィックノベル『アステリオス・ポリプ』で、アイズナー賞3 部門とハーヴェイ賞3 部門を含めた多くの賞を受けた。 2022 年には、コミックス文化への生涯の功績が称えられ、アイズナー賞の殿堂入りアーティストに名を連ねた。

矢倉喬士 (翻訳): 大阪大学で現代アメリカ文学を研究。 小説家ドン・デリーロの作品を扱った博士論文を執筆後、小説、映画、グラフィックノベル、ドラマ、ビデオゲームなどを対象に現代アメリカを多角的に考察している。 共著に『現代アメリカ文学ポップコーン大盛』(2020年、書肆侃侃房)、共訳にタナハシ・コーツ『僕の大統領は黒人だった』(2020年、慶應義塾大学出版会)がある。

はせがわ なお(翻訳): 読書愛好家の会社員。 東京都出身。 大学で英米文学を学ぶ。 未 邦訳書籍を紹介するブログ「#わたしだけのブッククラブ」と、友人 とやっているポッドキャスト「#それにつけてもファンガール」を更新中。 現在はとりわけアジア系アメリカ人文学に興味を持っている。最近注目している作家はCathy Park HongとKatie Kitamura。


A4変形版/上製本/344ページ/4色

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